大宮の東口ロフトにある島村楽器に出向いた。目的はギターの購入である。
ギターについて多少の知識がある今では、少なくとも、目的とするギターをある程度絞り込むか、そうでなくても、ギターの種類、価格帯ぐらいは、考えてから行きそうなものだが、アキヤンの場合はそうでは無い。取りあえず、楽器店に行くのである。行ってから、考える。そしていくつかのギターを吟味してから買う。・・・そう、そのつもりだった。
島村楽器には、ありとあらゆるギターが並べられており、値段も数千円から数十万するギター迄、様々であった。この中から選ぶのは相当大変そうだ。それに加え、アキヤンには、ギターの基礎知識がほとんど無い。弾いてみたら、何とかなるだろう。と考えていたのである。
「しかし、多いなぁ。ここにある楽器を全部弾いていたら、多分丸一日かかっても、終わらないだろう。」
アキヤンは聡明な頭で考えた。
<まず、初心者用と書いてある楽器は、検討範囲から外そう。>
これは、ずっと吹いていたサックスからの教訓である。サックスの場合、初心者用と書いてあるからと言って、初心者が使いやすい楽器という意味ではないのだ。だいたいは、初心者用のサックスは、誰が演奏しても難しいのが常道である。つまり、どうせ上手に演奏できないのだったら、それ程、音にこだわらなくても良いんじゃない?って書いてあるのと同じだろう。とアキヤンは勝手に判断したのだ。このため、2万円程度のギターで、○○教則本セットとか、○○一式セットとかの説明があるギターは外し、店の奥に進むこととした。
「スチール弦ですか?ナイロン弦ですか?」気配をみせず近寄って来た店員が発した言葉に、びっくりすると同時に、うろたえてしまった。
な、なんと、それを決めてなかったのである。確か師匠に借りているギターは、ナイロン弦のギターだけど、それをピックで弾くのはイレギュラーであると、誰かに言われた事があるし、確かナイロン弦のギターは、フラメンコでは指で弾いていたし、映画の禁じられた遊びは確かナイロン弦のギターだった様な、演歌の古賀政男が弾いていた様な、吉田拓郎が弾いていたのはスチール弦のギターだった様な、ボブディランもスチール弦だった様な・・・。腹は決まった。
「スチール弦のギター」当たり前だろうって感じの、少々投げやりな対応をした。
「どういう種類の音楽をやりますか?」
「はぁ?、どの種類って、その、・・・どの種類をって言う事は無いけどさぁ、音楽・・ポップスとか・・まぁ、そのぉ・・全般です。」だんだん敬語になる自分を罵りながら、アキヤンは答えた。何となく、私を値踏みしている様な雰囲気が見て取れる。どうも、彼はさっきのやり取りだけで、私が初心者だと見抜いたようだ。
<こいつ出来るな。>とアキヤンは勝手に思った。なんと彼は、初心者用のコーナーの方へ向かおうとしていたのだ。<なんだよぉ、だから初心者用は買わないんだって。馬鹿野郎>と心で悪態をついたアキヤンは
「ギターは始めたばかりで、あまり良くわからなくて・・。」とはにかみながら言った。
「最近ギターを始めたいって方、多いですよ、こちらのコーナーのギターはいかがでしょう、値段の割には、音が良くて、人気がありますが・・。」そのコーナーのギターには、”初心者におすすめ!ギターがすぐ始められるグッズがセット”と大きく書かれていた。<だから、初心者用は買わないんだって!>と心で叫びながら、「見た目は、カッコいいですね!」と答えるアキヤン。。
「そうでしょう。少し弾いてみませんか?」「これは、中国製なので安いんですが、この天板が一枚になっていて、本当に音が良いんですよ。」とギターのチューニングをしながら、店員が言う。チューニングの仕草からいって、相当のギターの使い手である事は想像に難くない。
「へぇ、中国製ですか?」「中国は最近目覚ましい経済発展をしてますからねぇ。」等と噛み合ない話をしていると、チューニングが終わったギターを渡され、試弾である。
「ピック使いますか?」「あ、はい」「少し柔らかいですけどこれで良いですか?」「はい。」従順なアキヤン。アキヤンの頭は、何を弾こうか??それだけであった。椅子に座ってギターを構えた私の右上に店員の視線が突き刺さっている。<知ってる曲は、中学校の時に習った”戦争を知らない子供達”だっけか、そんな曲ぐらいしか知らない。でも今は誰も知らないのではないか?>等と考えていると
「すみません、少し席を外しますが、弾いてみて下さい。」といって、店員は申し訳なさそうに、持ち場を離れた。
Cのコードを押さえて、ゆっくり弾いてみる。確かに、音が良い様な気がする。Amをさらに弾いてみる。ちゃんと音が一つ一つ出る。
「このギター案外音がいいなぁ。」何となく声に出して言ってみた。無論、他のギターを良く知らないので、比較のしようがないのだが、少なくとも、声に出して言ってみると、余計にいい音だと思えてきた。
それに、少し小さめのボディーで、持ち運びも楽そうだし、おしゃれなケースもついているし、狭い家での収納場所に困らないし、なんと言っても、また別のギターを試弾となると、また、あの店員とやり取りしなければならない。アキヤンの腹は既に決まっていた。<これでいいや!>
このように、吟味に吟味を重ねた上で初めてのギターを入手したアキヤンは、本格的なギター攻略に入るのである。
次回;”ギターは楽しい”編に続きます。
注)文中に少々事実を過大に表現している箇所がございます。それなりに、ご判断頂きます様お願い申し上げます。



